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スタッフのコラム

スタッフのコラム vol.21

忘れられない言葉
2017年03月03日 更新

こんにちは。入社5年目の林です。

先日、取材先でこんなことを言われました。「林さんは、初対面の人とでも緊張しないでお話できるんですね。その時、初めて、私は初対面の人と話すのは苦手じゃないタイプの人間なんだと思いました。

それから、昔のことをちょっと考えてみると、確かに、初対面の人を捕まえて、根掘り葉掘り話を聞いていてたんだな、と気がついたんです。小学生の頃から、かなり貪欲に様々な分野の人と交流していました。国際交流のイベントに参加したり、女性支援の団体にお世話になったり、底なし沼で生態調査をしたり、パフォーマンス団体に参加してみたり・・・無鉄砲に動いているだけのようではありますが、とにかく、興味を持った分野があれば、その人たちと関わって話を聞くのが好きでした。

そうやって出会った人たちからもらった言葉は、本当に大切なもので、仕事での悩みが解消されたり、勇気をもらったり、人生によい影響を与えてくれています。

今回は、そんな様々な人から言われた言葉の中でも、絶対に忘れられない言葉について紹介したいと思います。

それは、「デマは人を殺す」です。

もう10年ほど前になりますが、大学のゼミ合宿で水俣に行きました。ゼミ担当の教授は、その地で長年フィールドワークをしていた方だったので、水俣病と診断された人たちと会う機会をもうけてくれたのですが、ある方の最初の言葉が「みなさん、デマは人を殺します」でした。

その時は、テレビ番組を作りたいとは思っていなかったのですが、放送業界の仕事する人間になってからは、より一層この言葉の重みを感じるようなりました。

ディレクターは、取材をして、取材対象者の言葉を編集でつぎはぎして、更に、ナレーションを書いて、番組を完成させていくのが主な仕事なのですが、これらの過程の中で、私が「デマは人を殺す」という言葉を意識的に思い出すようにしているのは、編集とナレーションを書くときです。

例えば、ある研究者が「〇〇だ、と言われている」と言ったシーンを編集するとします。それをよりセンセーショナルに聞こえるようにしたいがために、「と言われている」をカットして「〇〇だ」にしてしまうと、「〇〇だ」の部分は、その先生の意見ではないのに、あたかも、その人の意見かのように聞こえてしまいます。発言の一部を削っただけで、人の言葉を捻じ曲げて伝えてしまうことになるのです。その研究者は、その後どうなるでしょうか?学会での立場が危うくなるなど、人生に何らかの悪い影響が出てくる可能性がないとは言い切れないと思います。

テレビ番組を作るのは、確かに面白いし楽しいことがたくさんありますが、だからこそ、私は、あの言葉を何度も自分に言い聞かせながら、取材対象者の言葉の文脈や意味合いを変えないように細心の注意を払って編集したり、ナレーションに誤りがないか何重にもチェックしたり、常に危機感を持ってテレビ制作に取り組んでいます。

テレビで放送されていると、冗談で作られたニュースもドキュメンタリーも本当のように見えてしまうことがあります。それだけ、映像の力には恐ろしいものがあるのだと思います。そんな中で、自分が意図せず「デマ」を作りだしてしまう可能性がある、という恐怖を忘れないようにさせてくれる「デマは人を殺す」という言葉は、今も私にとって大事な言葉です。

林咲希
ディレクター
林 咲希 Saki Hayashi (2011年入社)
<主な担当番組>
  • NHK-BSプレミアム「にっぽん百名山」
  • NHK-BS1「実践!にっぽん百名山」
  • NHK-BS1「Let's!クライミング」

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